糖尿病の「健康美」
〜ミスアメリカ1999の物語〜
ニコール、最近疲れている様子ね
大丈夫?
あまり無理しないようにな
両親がニコールに声をかけた
ニコールはにっこり微笑んだ
大丈夫
ミスアメリカに選ばれるようにがんばるわ
ニコール・ジョンソンは1974年生まれ
愛くるしい笑顔で愛された少女は
人も羨むような美貌の持ち主に成長し
フロリダ州の大学に入学した
友人のすすめで地元のミスコンテストに出場
最初は奨学金目当てだった
でも
コンテストは自分を表現する場
コンテストへの参加に意義を見いだした
19歳になったニコール
ミスアメリカのコンテストに出場しようと思った
ミスアメリカは全米で最も権威のあるミス
各州の代表の中から選ばれる
容姿端麗であることはもちろん
知性や教養も重要視されるので
外見だけではミスアメリカにはなれない
ミスアメリカを目指すの
自慢の娘の大きな夢に両親は喜んだが
ちかごろニコールは疲れている様子だね
と、心配もした
あまり無理しないようにな
大丈夫よ
ミスアメリカに選ばれるようにがんばるわ
ニコールは笑顔で答えたものの
最近急に体重が減ったわ
それに、疲れやすくなった
1993年
ニコールは予選を勝ち抜いていった
州の代表を決めるミスフロリダコンテスト
最終審査に残った
1位になればミスアメリカコンテストへの出場権が得られる
大切な大会だった
最終審査まであと数時間
ニコールは激痛に襲われた
それまで経験したことのない激しい痛み
意識を失って病院に運ばれた
意識が戻ると
医者は病気が見つかったと告げた
病名は1型糖尿病
生活習慣病の2型糖尿病とは違って
幼児や10代の若者にも多く見られる病気だという
血液中の糖の量が増えすぎたとき
血糖値を下げるのはインスリンという物質
そのインスリンを作り出す膵臓(すいぞう)内の細胞を
免疫細胞が誤って破壊してしまので起きる病気
毎日インスリンの投与をせねばならず
適切な措置を怠ると死に至る
ニコールは死を覚悟し
人生に絶望した
生きる気力をなくし
自暴自棄になった
甘い物を大量に食べようとしたりもした
それは糖尿病患者には自殺行為に等しいのに
毎日インスリン注射を打ち続けなければならない
そのストレスから
両親につらく当たったりもした
自分が1型糖尿病だと知ったショックで
学校へも行けなくなり
大学を中退した
感情のコントロールもできなくなっていた
容態が落ち着いてから
ニコールは他の大学に入学しなおした
友人には自分の病気のことを隠していたので
甘い物を食べに行こうと誘われても
理由を告げることもできず
ただ断るしかなかった
あんなに明るいニコールだったのに
明るさは取り戻せなかった
ある日
ニコールは強いめまいに襲われて倒れた
病院のベッドの上で意識が戻ると
すぐに母親に尋ねた
友達の誰かに、これのことを知られちゃった?
ニコールは少し前から
インスリンポンプという携帯用装置を身に付けていた
あらかじめ注入量をセットしておけば
自動的にインスリンが投与される装置だった
友人が病気のことを知ったらどう思うだろう
病気のせいで自分は何もできないと思われたくない
ニコールは友達に病気だと知られるのを恐れていた
ありのままの自分を恥ずかしく思って
消極的になっていた
入院中のある日
小さな男の子がニコールの病室にやってきた
ニコールのインスリンポンプを見て
僕も今日からつけているんだよ
これから毎日一緒だから
仲良くしなさいって
お母さんが言っていたよ
お姉ちゃんはこれと仲良くしている?
僕は野球の選手になるんだ
お姉ちゃんは何になりたいの?
私がハンディだと思っているこの装置を
インスリンポンプを
この小さな子は自慢している
この子は野球選手になる夢を持ち
あるがままの自分を友達に見せて
笑っている
病気を隠そうとして
命を落としそうになったこともある
自分は・・・
あなたは野球の選手になるのよね
うん、そうだよ お姉ちゃんは?
私はミスアメリカになるの!
ふ〜ん それって むずかしいの?
ぼくは それ 知らないけど お姉ちゃんがんばってね
ありがとう
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